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無題



メモ③












「貴殿の名は?」


「俺の名前が知りてぇなら、本気で殺りにこいよ」


「承知仕りました、ならば本気で行かせていかせていただく!!」






冬の寒さが厳しい朝方、白い息を吐きながら駅へと向かう。
長い髪を結ぶことなく風に遊ばせる。
背が低ければ女性に見えるその人物は、大きなあくびをして携帯を開く。


5:14


太陽がようやっと街を照らし始めたころだった。
まだ人の少ない始発の電車に乗り込み、定位置となった場所に腰をおろす。
大学まで2時間ほどかかるところから通っている藤次郎は、あちら側でのことを思い出していた。



「あの赤いの…」


首にかけていたヘッドフォンを耳に当て、お気に入りの音楽を流す。
目を閉じればあちら側での記憶が蘇る。

【伊達政宗】そう名乗る世界では、奥州筆頭として生きている自分は…

最高にかっこいい!
今が電車の中でなければ、声を上げて走り出したいくらいだ。

いや、そんなことより昨日のあの男は誰なんだ?
武田軍と上杉軍が戦をすると聞いて駆けつければ、突然目の前に現れた男。
赤い武装に、後ろで一つにまとめた茶色の髪をなびかせた槍使い。
名乗るタイミングも無く互い目があった瞬間に始まった戦いに、久しぶりの快感を得た。
身体に電流が走るような、そんな感じだ。



「なんつったかな…名前」


珍しく記憶が曖昧だ。
あちら側で最後何をしていたのかをハッキリ覚えていない…


「景綱になんか言われたのは覚えてるんだけどな」



赤い武装の男のことを考えながら電車に揺られた。














「佐助ぇー!!早く行くぞー!!!」
「ちょ!げんちゃん弁当落ちる!!!」
「佐助ー今日の弁当なにー」
「宗次はいい加減自分の昼ぐらい自分で買ってよ」



大学前の坂を上っていると中のよさそうな声が聞こえる。
今日は冬休み明けの最初の授業で、生徒たちは久しぶりに友人と再会を楽しんでいる。

藤次郎は長期休暇があろうが、授業があろうが変わらぬ生活をしている。
空いてる時間さえあれば戦国界へ行き戦をし、帰ってきたら睡眠をとる生活を繰り返していた。
大学が始まっても対して変わらない生活だろう。
家族と離れて暮らしている藤次郎は、家にいてもやることがないのだ。



「あ、シャンプー切れたんだった…」


生活感に満ち溢れた呟きをしながら今日からの生活について考え始めた。



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